フッ素とはどんなもの?

フッ素(元素記号[F])は、塩素やヨウ素などと同じハロゲン族元素の一つです。化合力が非常に強く、身の回りにある土や水、草や木などの植物、いろいろな動物はもちろんのこと、人間の身体にも例外なくフッ素は含まれています。
私たちは、毎日食べ物や飲み物からフッ化物を身体に取り入れています。フッ素は、人間の身体、特に歯や骨を丈夫にする有益元素です。
1日に必要なフッ化物は、成人では1日あたり3~4mg(0.05mg/kg)とされています。毎日の食べ物や飲み物からとる量では、むし歯を予防するのに必要な量が不足しがちです。そこで何らかの形でフッ化物を補う必要があるのです。
フッ化物の虫歯予防効果
どうしてフッ化物で虫歯が防げるのでしょうか?
フッ化物を歯に作用させると、歯の表面から取り込まれ、歯の結晶(アパタイト)の一部になります。フッ化物を含んだ歯の結晶は、普通の歯の結晶よりも丈夫になり、虫歯菌の出す酸に対してより強くなります。ですからフッ化物を適切に使うと、歯の表面が強くなり、虫歯になるのを防ぎます。
また、歯のエナメル質のまわりにフッ化物があると一度脱灰した部分の再石灰化を促進し、エナメル質の補修がしやすくなります。最近の研究では、この再石灰化促進力の方が虫歯予防効果としては大きいとされています。
フッ素はどのようにして虫歯を予防するのでしょうか。歯が形成される時期にフッ素が作用すると、
●フッ素はエナメル質と結びついて歯を丈夫にし、酸に溶けにくい抵抗力のある歯質をつくります。
また、歯が口の中に生えてきてからは、
●フッ素は細菌に作用して、虫歯の原因となる酸の生成を抑制します。
さらに最新の研究では、
●フッ素が酸で溶けてしまった歯の表面、すなわち、虫歯になりかけた部分を元に戻す。
というしくみが明らかになってきました。
虫歯菌が酸を大量につくり(酸に溶ける)が優勢になると、虫歯になって歯に穴があいてしまいます。フッ素は、睡眠中のカルシウムが歯に付着するのをサポートする力があるので、初期の虫歯をもとにもどすこと(再石灰化作用)ができるのです。
フッ化物を塗るのは専門家が

フッ化物の塗布は、専門家である歯科医師や歯科衛生士が行います。フッ化物を塗る時期も、「歯が生えたらすぐに」が原則ですが、具体的に「いつ」「どのように塗るか」については、歯科医師に相談します。
子供の頃は、次々と乳歯が抜け、新しい永久歯が生えてくるので、定期的に年2~6回くらい塗るのが適当です。
ここで紹介しているフッ化物ゲルの塗布以外では、フッ化物溶液で綿球を使った塗布法が多く用いられています。この方法では、いろいろあるフッ化物塗布法の中でも、歯ブラシのため不安感もやわらぎ、短時間ですむので特に幼児に向いています。
虫歯予防のフッ化物は安全です。

フッ化物というと安全かどうかを気にする人がいますが、安全性で問題になるのは、飲み込むフッ化物の量です。一度に大量に飲むと、急性中毒を起こします。しかし飲み込んで危険とされ医師の処置が必要となるフッ化物の量は、体重1kgあたり5mgです。(体重60kgの大人:300mg、体重10kgの子供:50mg)
フッ化物濃度を適正化した水道水を1日1リットル飲むと、約1mgのフッ化物を飲み込むことになります。フッ化物ゲルによる歯面塗布では、子供で9mgのフッ化物を使用し、口の中に残る量は、1mg程度となります。フッ化物洗口では、洗口後、口の中に残るフッ化物は、お茶1~2杯に含まれる量(0.2mg)と同じです。このように口の中に残る量は、危険とされる数値とかけ離れています。
フッ化物は、指示された量を守って使えば、虫歯予防に大変効果があり、世界中の学者や専門家により、研究が行われ、安全性も確認されています。すでに半世紀以上も世界の国々で使用されています。わが国ではまだ実施されていない水道水のフッ化物濃度適正化実施国としては、天然に含まれているフッ化物を追加調整して利用している国々で約60各国もあり、その他ヨーロッパではフッ化物入り歯磨き剤やフッ化物添加食塩、フッ化物上剤の利用も盛んです。グラフでは、成果のあがっている国々に対して日本のフッ化物利用の少ないことが特に指摘できます。

虫歯予防にフッ化物を使うことは、世界保健機構(WHO)や国際歯科連盟(FDI)をはじめ、日本においても、厚生労働省や文部科学省、日本歯科医師会などが推奨しています。また、日本歯科医学会では、医療環境問題検討委員会フッ化物検討部会で、フッ化物使用の安全性について多角的に検討を加えて証明を行い、1999年12月に「フッ化物は虫歯を予防する効果がある」として了承されています。